リコンディショニング・ジャーナル No.04 February.16, 2000


福岡のリコンディショニング施設、FRECOSの紹介
 リコンディショニングを看板に掲げた施設として、おそらく日本で初めてと考えられる のが、福岡リコンディショニングステーション(通称フリコス、FRECOS=Fukuoka Recond itioning Stationを略したもの)です。この施設については、Sportsmedicine Quarterly第25号で報じられていますが、ここではそこに掲載された2つの記事を基に再構成してお届けします。

 FRECOSは昨年の8月にオープンしたが、経営はスポーツコンディショニングプロモーシ ョンJIN(SCPJ) という会社である。代表の松田孝幸氏は理学療法士であり、福岡ユニ バーシアードの選手村医務班のリーダーを務めたほか、SCPJとして医療機関と提携、スポ ーツ選手のリハビリテーション、リコンディショニングなどを実施してきた。

 FRECOSは、福岡市早良区のビル1階の全フロア(約100 坪)を使用。大きく分けて以下 の4つのスペースで展開している。

1-スポーツ鍼灸治療室
鍼灸治療設備のほか、各種物理療法機器も備えている。
2-セミナー室
常設50名の研修室(セミナーの内容については後述)。
3-トレーニング室
個別指導を原則としたきめ細かいトレーニング指導を実施。
4-エアロビクススタジオ
新開発のエアロビクスダンスのほか、各種運動実践教室を展開。

 ビル自体はかなり古いものだが、1階であり、スペースもかなり広い。内部は古さを感 じさせない「おニュー」状態だが、自分たちでできること、例えば壁の塗り替えなどはFR ECOSのスタッフが行ったという。FRECOSとはどんな施設か。やや難しく言うと「スポーツ 選手の競技復帰や一般の方の身体機能を調整するための総合的な専門施設」となる。

 前述したように、SCPJでは、従来から、医療機関との連携を図り、スポーツ現場に対し てはトレーナー活動のサポートを行ってきた。また、地元にあった住友金属男子バレーボ ール部が廃部になったあと、クラブチーム「福岡ワンダーズ」を設立、国体出場を果たし たほか、地域住民に対して広くスポーツ指導を実践してきた。この地域での活動がFRECOS を支える基盤になっていると言えるだろう。SCPJには、先のユニバーシアードの男子バレ ーボールチームにトレーナーとして帯同した寺崎拓也氏のほか、トップアスリートもいる 。「リコンディショニングセンター」ではなく、「リコンディショニングステーション」 としたのは、リコンディショニングを行う1つのステーションとしての施設であり、この ステーションから、それぞれの目的地まで到達してほしい、またやがて本格的なリコンデ ィショニングセンターができたときには、そのセンターに至るまでの過程にしてほしいと いう意味である。

独自のエアロビクスとセミナー
 FRECOSでは様々な活動を行っているが、エアロビクスとセミナーという特徴的なものに ついて説明しておこう。

1)エアロビックダンス
 松田氏はSportsmedicine Quarterly第24号でこう述べている。「新たな施設の1つの特徴として、エアロビクスをもう少し根本的に見直そうということがあります。レクリエー ションレベルからスポーツ選手のトレーニングに至るまで、エアロビックダンスを手法と して組み立てていく」

 つまり、故障を起こさない動作、安全で効率のよい動きの基本パターンを組み入れたエ アロビクスである。エアロビクスとしての効果とともに、動作習得にもつながる。

2)スポーツメディスンセミナー
 基礎コースは平日夜間(週1回)と日曜終日(月1回)、下記の各コース15〜30単位の 単位認定程度で実施。この基礎コースの全課程を修了した人で希望があれば、SCPJ関連病 院やSCPJかサポートしているチームでの実践的な研修を行うこともできる(インターンコ ース)。

〔コースの種類〕
アスレティックリハビリテーションコース/アスレティックトレーナーコース/トレーニ ングインストラクターコース/ヘルスマネジメントインストラクターコース/スポーツエ アロビクスインストラクターコースなど

「リコンディショニングって何ですか」への答え
 松田氏は、Sportsmedicine Quarterly第25号にこの施設オープン2カ月後のレポートを寄せている。それによると、オープン当初は「リコンディショニングって何ですか」とい う質問に答えるのが“重要な仕事”になったそうだ。FRECOSオープンのニュースは地元で は新聞やテレビでも報じられた。それによって知られたはいいが、リコンディショニング って何?という問い合わせが続いた。松田氏らはそれにどう答えたか。同氏は上記のレポ ートでこう述べている。

「次第に、リコンディショニングの一般概念の説明より、『あなたが今失ってしまった、 あるいは失ってしまいそうなからだの機能はありませんか? それをよみがえらせてみま せんか?』という導入形態に定着してしまいました。当FRECOSのキャッチフレーズ『から だ・みえる・よみがえる』の『よみがえる』がこのようにアピールするとは開設前には考 えなかったことです」

 これに対して「では、昔はできたけれど、今はできないということが、またできるよう になるんですね」と答えた人もいると言う。われわれは、ついトシだからと諦めてしまう 。昔のようにはいかない……と。しかし、回復不可能なものと、回復可能なものがある。 どちらかと言うと後者のほうが多いかもしれない。それに対するアプローチをしてくれる ところが、あるいはそういう考え方が広まったいなかったにすぎない。では、実際にはど ういう人がこの施設を利用したのか。

2カ月の利用状況と3実例
 松田氏は、Sportsmedicine Quarterly第25号のレポートで、オープンから2カ月の利用者数を新患者数117 名、内訳は男性78名、女性40名(10月3日現在)と記している。そして、実際に行ったリコンディショニングの例として以下3つを挙げている。そのまま引用 させていただく。

●ケース1:11歳男児、身長150cm、体重45kg
 小学2年生より少年サッカーを始める。1年前から腰痛あり、CTで腰椎分離症はみら れたが、明確な原因は不明。練習は続けているが、痛みのため積極性もなくなってきてい た。基本動作、筋力強化などで状態が変化していないだろうかと主治医より相談があり、 来所した。背筋が異常にかたく、指床間距離は20cm、昨年1年間で身長も5mmしか伸びていなかった。上体起こしができず、腹圧がうまく入らない状態でランニングを繰り返して おり、椎間関節周囲に強い圧痛があった。全身弛緩性テストを行うと、関節自体は柔らか く、体重は年齢平均を上回っていた。脊椎への過剰なストレスによる影響が考えられ、状 態をよく説明し、練習を中止してプール遊びを積極的に行わせた。同時に、腹筋運動と背 部のストレッチを母親に教え、指導できるようにし、様子を観察した。3週間ほどで腰痛 は軽減したため、サッカーの練習も時間を決め開始した。身長は1カ月で7mm伸びた。

●ケース2:21歳女性
 中学3年のとき腰椎椎間板ヘルニアの摘出術を受け、以来年一、二度“ぎっくり腰”を 繰り返すようになった。術創周辺はかたく、第4・5椎間関節の可動性もみられなかった 。常に痛みが出そうな恐怖心のため、運動量は減り、股関節周囲筋は両側ともに低下して いた。手術後遺症への対処として、可動性改善訓練、腹筋・股関節周囲筋筋力強化を行い 、現在不安感はかなり軽減している。少し運動を始める気持ちも起きてきている。

●ケース3:80歳女性、やや肥満体型
 2年前、左膝半月板部分切除を行い、極度に歩行量が減少した。今回も、右膝痛に対し 半月板切除を勧められているが、歩けなくなるのではないかと躊躇しており、相談のため 来所。前回の手術以来洋式生活が中心となり、階段などは極力避けるようにしていた。腓 腹筋は短縮し、両側の足関節背屈角度制限が強く、棒状の歩行様式であった。ストレッチ と機能的足底板作成を行い、軽度膝屈曲位で歩行が可能になると膝の痛みも忘れていた。

 わずか3例の報告ではあるが、リコンディショニングに求められているものがよくわか ると言えるのではないだろうか。みな「コンディションを悪くしている」。医療機関では それに対応しにくい。あるいは医療の対象とならない程度。しかし、これらのニーズを抱 えた人は多い。

 もちろん経営は容易ではないだろうが、松田氏はこう語っている。
「こういうリコンディショニング施設は前途多難だと覚悟していますが、その必要性を確 信し、また可能性を信じていますから、多くの人に助けられながら、我々が一生懸命やる ことで必ず成功する、また成功しなければならないと思っています」

FRECOSオープンの意義
 まだ「リコンディショニング」といってもわかる人のほうが少ないのは事実だが、この 言葉は徐々にいろいろなところで見かけるようになってきた。もっともリコンディショニ ングの意味は、使う人によって様々なようで幅広い。だが、前号で記したように、医療で は対応できない、しにくい「不調」に対応する新たアプローチという点では一致している 。FRECOSオープンの意義は、「施設」という目に見える形でとにもかくにもリコンディシ ョニングを始めたことである。この場合のリコンディショニングには、本誌が指摘する「 ファンクション」という概念がベースにある。「からだ・みえる・よみがえる」というキ ャッチフレーズもその反映であろう。
 まだFRECOSの将来は「前途多難」であろうが、やがては次の段階に入るだろう。そのと きは、本誌でも紹介することにしよう。なお、FRECOSの所在地、連絡先は次の通りである 。

●福岡リコンディショニングステーション(FRECOS)
〒814-0161福岡市早良区飯倉2-14-10 西日本ネオンビル1階、電話兼FAX:092-852- 2755

〔参考・引用文献〕
1)「福岡にリコンディショニング施設オープン」、SQ Square 、P79-80、Sportsmedicine Quarterly第25号、1999
2)松田孝幸:身体機能の改善を図る施設纒汢ェリコンディショニング・ステーション近況 報告−、P55-57、Sportsmedicine Quarterly第25号、1999