リコンディショニング・ジャーナル No.01 January.10, 2000


スポーツ医療の新たな展望--リコンディショニング
 リコンディショニングについては、小社発行のSportsmedicine Quarterly(以下SQ)第24号で、約100 頁の特集を組んで、様々な角度から検討した。要約すれば、今後スポーツ医療が発展する1つのあり方とも言えるし、ニーズが高い割に対応できていなかった部分を埋める概念とも言える。すでに、リコンディショニング関連施設として民間ではオープンしたところもあるし、公共では神戸市が「リコンディショニングセンター」構想を掲げている。ここでは、その概念を整理して、2000年のスポーツ医療のあり方の1つとして提示してみたい。

「エコとリコ」
 20世紀末、世界的な認識、あるいは運動となったのがエコロジーである。エコロジーは生態学と訳されるが、一般的には自然環境、地球環境保全という意味で捉えられ、人口増加と科学文明の進歩に反比例して起こった環境破壊をくい止めようという運動にも広がっている。巷には「エコマーク」のついた「エコ商品」も数多くみることができる。

 ここであえて「エコとリコ」と呼んでみたのは、リコンディショニングという概念も、極めて広い裾野を持ち、どの国でも幅広い世代に有効なものと考えられるからである。

リコンディショニングとは
 リコンディショニングという言葉自体は新しいものではなく、スポーツ現場やスポーツ医療の分野でも使用されてきた。

 それは、おおむねケガや病気でコンディションが低下したあと「コンディショニングを再開すること」くらいの意味合いで、例えば、受傷後、競技復帰する際のトレーニングプロセスとしてこの言葉が使われていた。医療機関内でのリハビリテーションをメディカルリハビリテーション、医療機関外で、競技復帰を目的に行うのをアスレティックリハビリテーションと呼ぶこともあるが、いわば後者の別の言い方としてリコンディショニングが用いられていた。

 SQ編集部では、第24号で、リコンディショニングの特集に伴い、コンディショニングおよび関連する用語のいくつかの定義について調べてみた。詳細は同号を参照していただきたいが、アメリカのNSCA(ナショナルストレングス&コンディショニングアソシエーション)事務局のハーベイ・ニュートン氏にリコンディショニングの定義について尋ねたところ、正式なものでないが、NSCAのスタッフによると「コンディションが低下した状態(de-conditioned) の個人に対し、競技に先立ち、以前のコンディションされた状態まで回復させる助けとなるコンディショニングプログラムを提供するプロセス」(SQ第24号、P.99) とのことであった。これも、上記の意味とほぼ同じである。

しかし、新たに提案されている概念は、リコンディショニングの捉え方と方向性を定め、その結果逆に対象も広まっている(図1参照)。

 これについて説明する前に、なぜリコンディショニングという概念が新たに出てきたのか、その背景について述べておこう。

なぜ、リコンディショニングか
 スポーツ医学は、本誌創刊の1970年代から急速に発展を遂げてきた。当時、特に世界のトピックスであったのが前十字靱帯損傷であり、各国で手術法、リハビリテーション法が競われ、大きく進歩した。それに伴い、様々な研究も進み、ケガの診断・治療については長足の進歩を遂げた。かつてはヒトケタしかなかったスポーツ医療機関(スポーツ整形外科、スポーツクリニックなど)も現在では3ケタになっている(Sportsmedicine Quarterly編集部調べの最新情報では計126 施設、詳細は同誌の第25号に掲載)。また、1982年には(財)日本体育協会公認スポーツドクター制度が発足、1998年10月現在、同スポーツドクターは3558人にも達している(日本整形外科学会認定スポーツ医制度は1986年発足、1992年2月現在、4525人、日本医師会健康スポーツ医制度は1992年発足、1999年5月現在1万3984人:データは「スポーツドクター制度繧サの1」長嶋淳三・武者春樹著、スポーツジャーナル1999年8月号より)。スポーツ現場により密着するトレーナーについては、日体協公認アスレティックトレーナー制度が1994年発足、現在304 人が登録されている。このように、スポーツ医療を取り巻く制度や施設面では20年前とは大きく異なり、進歩が著しい。

 しかし、スポーツ医療の面で、まだ十分対応できていないものがある。例えば、退院後から競技復帰までのトレーニング、日常的には不自由はないが全力でプレーできない状態。ケガは治ったがなんらかの後遺症を呈している状態。特定の動作で痛みが生じるが、骨や関節、筋肉など特に異常はないと言われてしまう状態。慢性的な痛みでいくら治療を受けても改善されない状態。過去ケガをしたが特に治療を受けず放置したため痛みや不安定性が残り、プレーに支障がある状態。原因がよくわからない痛み。

 こうして挙げていくと、実はスポーツ選手のほとんどが経験しているものであることがわかる。しかし、現実には、なかなか医療機関では対応できないものでもある。その理由の1つには、これらの状態は保険制度の枠を越えることが多く、医療機関としても対応したくても時間がかかるうえに採算がとれず、結局ボランティア的にやるか、特定の公共的なスポーツ専門医療機関に行くしかなく、そういう専門機関は数が少なく、現実には利用できない人が多い。では、どうすれば対応が可能になるか。その回答の1つがリコンディショニングである。

リコンディショニング
スポーツと医療のノウハウを合わせ、動きや機能からみる視点
 糖尿病や高血圧、高脂血症など生活習慣病と言われているものに対して、運動療法が盛んに勧められるようになってきた。医療保険でも平成8年4月の社会保険診療報酬改正で高血圧の運動療法指導管理料が認められたが、この対象はまだ拡大されていくだろう。運動が健康の保持・増進のみならず、疾病を改善、抑制する効果が認められているということで、もちろんこれも広い意味でのリコンディショニングに入る。しかし、ここでは、先ほど挙げたスポーツ選手の場合を想定してみよう。つまり、医療機関ではすでに治療を終えていたり、あるいは治療というより、筋力強化や柔軟性向上、トレーニング方法の検討など、コンディショニングレベルの問題となっている場合である。

 この場合、例えば投球になんらかの支障があるのなら、まず身体の状態と機能をチェックする。そして、投球フォームを観察し、運動や動作の全体から、修正や改善すべき点を見いだし、トレーニングや装具(テーピングや足底板など)によって対応する。

 簡単に言うと、そういう流れになる。ここでキーになってくるのが、身体の状態や機能をどうチェックするか、またそこからどういう対応をするかである。

 いずれにせよ、この部分は、医療との連携は不可欠ながら、医療保険の中で対応することは難しく、新たな発想によるハードとソフトの構築が求められる。このシステム全体をリコンディショニングと呼び、例えばリコンディショニングセンターを設け、その中で研究・研修を含め、対応していくことが可能ではないかという提案なのである。

 スポーツ選手の場合を取り上げたが、少し考えるとこれはスポーツ選手のみの問題ではないことがわかる。例えば、どうも腰が痛い、だんだん肩の調子が悪くなってきた、少し長く立っていると膝が痛む、こういう問題を抱える中高年は非常に多い。それがもとで運動が億劫になってきたり、家に閉じこもりがちになり、その結果として生じる運動不足が生活習慣病につながっているという例も多いだろう。治療を要する前の軽度の段階あるいは特にまだ支障は出ていないが、調べてみるとコンディションの低下がわかり、その段階で対応できれば、いわゆるQOL(クォリティ・オブ・ライフ)も向上し、ひいては医療費高騰の抑制にもつながるだろう。

 ところで運動や動作と身体機能を合わせて考えるリコンディショニングは、スポーツと医療の両方に関連しており、これまで培われてきたスポーツと医療の知識、技能、いわゆるノウハウが活かされる分野である。医師や理学療法士、アスレティックトレーナー、トレーニングコーチなど、スポーツ医療の様々な人材が求められる場でもある。

 問題は、医療との連携をどのようなシステムにするか、身体の状態・機能のチェックシステムをどうするか、またそれをどこで行うかなど様々挙げられる。リコンディショニングセンターについては、図2に示した通り、神戸市がアスリートタウン構想のリーディングプロジェクトの1つとして検討を進めている。また、福岡市では「リコンディショニングステーション」という名称で民間レベルでの試みもすでに始まっている。

 今後の展開としては、現存するフィットネスクラブの1コースに採用される可能性もあるし、1つの潮流になりつつある医療系フィットネスクラブのあり方の1形態にもなるかもしれない。

リコンディショニングの展望
 リコンディショニングについては、そのシステムやビジネス化など研究課題は多い。SQ第24号では、各方面の専門家の意見を掲載したが、現在、小グループでのディスカッションや研究活動も続けられている。図2に示した神戸市のリコンディショニングセンターとネットワークの概念図もあくまで構想段階のもので、今後さらに検討が進められるとのことで、センター構築にはまだ時間がかかるだろう。しかし、今後は、様々な事例や研究データが公表され、多くの議論を経て、ある形になっていくと思われる。本誌やSQでは、その展開について逐次紹介していくことにしよう。