リコンディショニング・ジャーナル No.03 February.1, 2000


★編集部より
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リコンディショニングの概念
 リコンディショニングの概念については、Sportsmedicine Quarterly第25号の特集「ファンクション」で図とともに整理されています。今回は、その5つの概念図とともにもう一度リコンディショニングについて考えてみました。

リコンディショニングとファンクション
 ここで言う「ファンクション」とは身体機能のことを差しています。別の表現をすると 、運動や動作、動き、その源にある原理原則を明らかにして、そこから、体調不良やスポ ーツ選手に限らず人間全般のパフォーマンス向上・発揮につながる方法や技術を見いだそ うとする考え方です。

 では、まず以下にSportsmedicine Quarterly誌第25号で捉えられている「リコンディショニング」と「ファンクション」の関係を同号の「はじめに」から引用しつつ、新たな説 明を試みてみました(〔追加説明〕として付記)。


●リコンディショニングの概念図:「コンディショニングのやり直し」
 まず、リコンディショニングは、大きな枠では「コンディショニングのやり直し」であ るが、それはなんらかの原因があって、コンディションが低下、悪化した状態(コンディ ション不良、de-conditioned)からの回復、あるいはその改善、向上を意味する(従って 、リコンディショニングは、スポーツから発したものであるが、スポーツ選手に限定され るものではなく、広く「誰にでも」適用されるものである)。

〔追加説明〕
 コンディションの低下とは、一般的にはよく「体調が悪い」といわれる状態にあたりま す。「風邪を引いた」というようなものも含まれますが、「ファンクション」という概念 からは、どちらかというと、関節や筋肉など運動(注/スポーツと運動という限定された 意味ではなく、広い意味での運動、つまり歩く、座る、顔を洗うなども運動とします)に 関わるもの、例えば肩こりや腰痛、膝や肘の痛みなどを想像するほうがわかりやすいでし ょう。また、ケガをして治療を終えたけれど、「イマイチ調子が戻らない」という状態も 含まれます。

●リコンディショニングの概念図:スポーツ選手は「新たなコンディョニング」、一般人は「新たにコンディショニング」
 大事なことに、「コンディショニングのやり直し」の「やり直し」とは、「もう一度繰 り返す」ことではない。例えば、あるスポーツ選手がなんらかのコンディション不良を呈 したとき、その原因を突き止め、その原因を除去するとともに、よりよいパフォーマンス 発揮のための方策を立てることを行う。従って、その選手が過去に行っていた「コンディ ショニング」を「再開」するのではなく、そのコンディショニングとともに、身体の状態 (体調、体力、構造的問題など)、身体機能、スキル、環境・用具その他を根本的に見直 し、「新たなコンディショニング(=リコンディショニング)」を行う(リコンディショ ニングの概念図2上)。

 スポーツ選手ではなく、過去にコンディショニングを特に実施していない一般人につい ても、スポーツ選手同様、そのコンディション不良の原因を突き止め、その原因を除去す るとともに、その人にとってよりよいパフォーマンス発揮(=QOLの向上)のための方 策を立て、「新たにコンディショニング(=リコンディショニング)」を行う(リコンデ ィショニングの概念図2下)。

 スポーツ選手であろうが、一般人であろうが、リコンディショニング実施に共通してい るのが、「コンディション不良」の「原因」を突き止め、それに対応すること、よってパ フォーマンスの向上を目指すことである。

 また、これらは治療を必要とするコンディション不良・低下ではない。その場合は当然 医療機関においてまず治療したのち、リコンディショニングが必要になるだろう。

 逆に言うと、医療機関では対応しにくいもの、医療保険の枠外にあるものがリコンディ ショニングの対象となる(だが、これはリコンディショニングが医学的知識・技能を必要 としないことを意味するのではない)。

 ここまでが、広い意味でのリコンディショニングであり、実際にはそのアプローチ、手 法は様々考えられる。
(中略)
 その意味で、この概念図1から2までは、これまで一般的に捉えられていた「リコンデ ィショニング」の概念を整理したものだが、概念図3以降は、この特集(注/Sportsmedi cine Quarterly第25号の特集のこと)でなぜ「ファンクション」を扱うかという点を説明 するものであり、新たな観点から「リコンディショニング」を提案する基盤となるもので ある。

〔追加説明〕
「コンディション低下の原因を突き止め、対応する」とはどういうことでしょうか。例え ば、肩こりだとしましょう。通常、肩こりになると、肩をたたいてもらったり、マッサー ジをしてもらったり、鍼を打ってもらったりします。それは「肩こり」という現象をなく すための方法です。それはそれで効果的ですが、同じ生活をしていれば、いずれまた肩は こってきます。なぜ、肩がこるのか、その原因を、日常の生活動作や姿勢、習慣などから 見いだし、そこにアプローチする方法、それがリコンディショニングというわけです。原 因を探り、そこからナプローチする、それは実はスポーツ医学がめざしてきたことでもあ るのです。

「ファンクション」という視点
 ファンクション(function)という言葉は、スポーツ医学の世界で近年目に触れる機会 が増えている。その意味では、「リコンディショニング」より以前から用いられている。 実際には、function、functional、機能、機能的という表現として、例えば、まず浮かぶ のは「機能解剖」だろうが、functional braceなどという使われ方もある。成書としては 1988年刊行の『ファンクショナル・テーピング』(川野哲英著、小社刊) がある。
(中略)
 トレーニング、エクササイズ、運動、スポーツ、様々な言葉があるが、そのすべてに関 わり、その根源にあるのが身体機能であると捉えてみる。すると、身体機能を向上させる のがトレーニングであり、エクササイズであろうし、スポーツは身体機能の高いパフォー マンスを目指すものであろうし、リハビリテーションは身体機能そのものを回復させるも のであろうと考えることができる。

●リコンディショニングの概念図:「本来備わっている身体機能」
「本来備わっている機能が発揮できていない状態」から「本来備わっている機能を発揮 させる」こと。これはリハビリテーションの部分もあるが、リコンディショニングの部分 も大きい。身体機能の面から表現すると、リコンディショニングは、このように言うこと もできる。

「本来備わっている機能が発揮できていない状態(de-conditioned) から本来備わってい る機能が発揮できる状態にするのがリコンディショニングである」  次の段階としては「今ある機能をさらに高める」こと。機能向上のベースがわかれば、 それはさらに向上するための方向を知ることにもなる。スポーツ選手なら記録やスポーツ パフォーマンス向上、一般の人にとっては、QOL(Quality of life)の向上になる。

〔追加説明〕
 少し難しい表現になっていますが、こういうことです。わたしたちはあまり気がついて いないことも多いのですが、わたしたちの足や手、その他体のどの部分にもうまくできた 機能が備わっています。しかし、何かの原因でその機能が発揮できていないことがありま す。それがために、他の部分にも悪い影響が及んでいるということもあります。「そうい うふうにできている」のにもかかわらず、「そういうふうに動かない」状態ともいえます 。それを元の状態に戻してやる。それが、リコンディショニングの大きな考え方になりま す。

●リコンディショニングの概念図:リコンディショニングの流れとリコンディショニングの全体像
この観点で改めてリコンディショニングの流れを整理すると、リコンディショニングの 概念図4になる。

 このリコンディショニングが対象とする領域は表1のように実に幅広く、まさに21世紀 に求められる概念と言えるのではないだろうか。

 これらをまとめてリコンディショニングの概念を表してみたのが概念図5である。
いずれにせよ、「身体機能」「ファンクション」がキーワードになる。であれば、「身 体機能」「ファンクション」とは何か。身体の機能をどう捉えるのか。機能を支える「構 造」との関係はどうなのか。そこから、トレーニングやエクササイズ、運動、スポーツを どう捉えていくのか。

この問題を解く方向性が、リコンディショニングと重なっていく。これが今回の特集テ ーマ設定のキーコンセプトである。(以下省略)

〔追加説明〕
 リコンディショニングの構造がだいぶ詳しくなってきました。図4の「アライメント」 というのは、骨の配列、骨の並び方のことで、当然その人その人で違ってきます。わかり やすい例でいうと、O脚やX脚の人はアライメントが悪いということになります。しかし 、そのアライメントはある程度矯正することもできますし、そのアライメントに合った方 法で運動や動作をすることが大切になります。そうしないと、ケガをしたり、どこかに痛 みが生じたりしてくるのです。

 図5で大事なのは、リコンディショニングは身体機能を上げていくものだけれど、それ は医療保険の枠外で行うものという点でしょう。病気やケガは医療で治すのが先決です。 しかし、病院に行くほどではないもの、あるいは病院に行っても対応が難しいものもたく さんあります。それはどこに行けばよいのでしょう。まだそういう施設はありません。例 えば「リコンディショニングセンター」のようなところがあれば、そこで実施することが できます。すでに「福岡リコンディショニングステーション」といって、この考え方で施 設とソフトを構築しようとし、実際に稼働しているところもあります。この施設について は、また回を改めて紹介することにしましょう。

 ここでリコンディショニングのポイントをまとめておきましょう。
1-リコンディショニングは、幅広い意味での「不調」に対応する。
2-「不調」の原因からアプローチする。
3-特に身体機能(ファンクション)に注目する。
4-医療保険の枠外で実施する。

 今回は、「概念」をテーマにしました。方法については、また回を改めて紹介すること にしましょう。